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高松高等裁判所 昭和25年(う)592号 判決

控訴人 被告人 亀田敏行

弁護人 矢野三郎

検察官 田中泰仁関与

主文

原判決を破棄し本件を今治簡易裁判所に差し戻す。

理由

弁護人矢野三郎の控訴趣意第一点について、

記録を調べてみるに、本件昭和二五年三月一〇日の第一回公判以降同年六月五日の第八回公判までの各公判調書には今治簡易裁判所は裁判官横田吟が構成開廷して審理又は判決の言渡をしたと記載されているにかゝわらず、調書の末尾に裁判官済川順信の署名押印があることは所論の通りである。しかして公判調書には裁判所を構成し公判に関与した裁判官が署名押印するか又は該裁判官に差支えあるときは、裁判所書記官がこの事由を記載して署名押印しなければならないものであることは、刑訴規則第四六条により明らかなところ叙上各公判調書はその要件を具備していないばかりでなく、全然関係がないと思われる済川順信裁判官の署名押印があるのであるから、右規則第四六条刑訴法第四八条に違反するもので無効と云わなければならない。そうすると判決の基礎となる原裁判所における訴訟手続が適法に履践されたかどうかを証明する資料がないので判決に影響を及ぼすことは明らかであるから論旨は理由がある。

又本件に関する判決書として記録に綴られておるものはその署名押印からみて裁判官済川順信が作成したものであることが明らかであるところ公判調書には前段説示の通り横田裁判官が公判廷において審理をしたように記載されておるので形式上審理に関与していない即ち口頭弁論を聴いていない済川裁判官が今治簡易裁判所を構成して判決をした違法もある。

以上の理由によりその余の控訴趣意に対する判断を省略し刑訴法第三九七条第三七九条に則り原判決を破棄し同法第四〇〇条本文により事件を原裁判所に差し戻すものとし主文の通り判決をする。

(裁判長判事 満田清四郎 判事 太田元 判事 呉屋愛永)

弁護人矢野三郎の控訴趣意

第一、原審は訴訟手続において刑事訴訟法第四三条、第二八一条第二項、第三一五条の違反がありその結果原判決は口頭弁論によらずして為したる無効のものとなる。

(一) 原審第一回公判調書によれば、この公判に臨みたる裁判官は今治簡易裁判所裁判官横田吟であり、而て第二回乃至第八回までの公判調書によれば各その公判に臨みたる裁判官は右第一回公判調書に記載したと同一の裁判官となつている。つまり本件における口頭弁論は第一回より第八回まで一貫して横田吟裁判官列席の上為されている。

然るに一方是等各調書末尾における裁判官の署名は同裁判所裁判官済川順信になつている。

(二) 右は開廷後裁判官の変つたものと見られないことはないが、それであつたら刑事訴訟法第三一五条により判決宣告の場合を除いては其都度公判手続は更新されねばならぬ筈だが是等各調書には、その変つたことも公判手続を更新したこともその形跡がない。

(三) 而て本件判決を為したるは済川順信裁判官である。そうすると同判事は未だ一回も口頭弁論に列席することなくして本件判決を為したことになり判決そのものが全然無効である。

右は書記官の誤記であるかも知れぬが刑事訴訟法第五二条に公判における訴訟手続は公判調書のみによつて証明されるという法意の手前単に誤記として看過すべきものではないと思われる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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